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Channel: 探墓巡礼顕彰会-墓碑調査・研究プロジェクト-
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エトロフ(択捉)島の戸田亦太夫の墓

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会員のカネコです。

当ブログでは会員が実際に行ったことがあるお墓を紹介していますが、今回は行ったことがない、否、行けないお墓を紹介します。

少し前に投稿した初代蝦夷奉行羽太安芸守正養の墓の中で、羽太正養が奉行職を解かれる理由となった文化4年(1807)にロシアがエトロフ(択捉)島を襲撃した文化露寇について触れました。
この時にシャナ(紗那)会所を守っていたのが幕府の役人であった戸田亦太夫です。

戸田亦太夫は寛政11年(1799)蝦夷地取締御用掛が新設された際に普請役として蝦夷地に赴き、享和3年(1803)箱館奉行支配調役下役、文化4年(1807)調役下役元締に進み、エトロフ(択捉)島のシャナ(紗那)会所に勤めていました。

同年4月29日(1807・6・5)ロシア船2艘がエトロフ(択捉)島南部のナイボ(内保)を襲撃し、さらにシャナ(紗那)へ進撃してきました。亦太夫の上役菊地惣内は箱館に出張中であったため、亦太夫は詰めていた南部・津軽各藩の兵に命じて、ロシア兵と一戦を交えましたが、陣屋は会所に劣っており敗れ、夜になって会所を焼き退却しました。亦太夫はこの責を負い、アリモエ(有萌)の地で自刃しました。34歳の若さであったといいます。その場所はその後、腹切沢と言われるようになりました。

この戦いでは間宮林蔵が奮戦したという話がありますが、実はこのことについては不明な点が多く、林蔵は大した活躍をしていなかったという説もあります。
また、亦太夫についても毀誉褒貶があります。『潮騒の択捉 島を返せ』には、幕府の医師久保田見達の「北地日記」に亦太夫は怯懦の男であったように書かれているが、本城玉藻の「根室千島両郷土史」の中の「択捉沿革史」の中では亦太夫は誉高い武士として描かれており、「根室郷土史」を書いた寺島柾史もこの説をとっているとあります。
さらにこの『潮騒の択捉 島を返せ』には択捉の小学校の校長である昆校長は遠足のたびごとに亦太夫の墓を訪れ、鎌をもって草を刈り、お墓の掃除をした後で線香を立ててお参りをしてから、児童達に亦太夫の事績について語っていたとあります。同書にはこの昆校長による祭文も載せられています。
洞富雄『間宮林蔵』には上記の「北地日記」や林蔵が村上島之允に語ったという『丁卯筆記』に林蔵が先制攻撃を主張したことや、奮戦したことが書かれていることを紹介していますが、その真偽については疑義を示しています。
その後の林蔵の英雄化に対比して、シャナ会所から退却した亦太夫の評価が下げられたのではないでしょうか。
しかし、ロシアの圧倒的な武力の前では果たして先制攻撃は効果的であったのでしょうか。上役不在の中で退却を決断した亦太夫の行動は、致し方ないことであったと思います。
寛政11年(1799)から文化4年(1807)の8年間にわたり、異境の地であった蝦夷地の行政に尽力した亦太夫にとっては無念の最期であったことでしょう。

『根室・千島歴史人名事典』にはエトロフ(択捉)島アリモエ(有萌)の亦太夫の墓の写真が載せられています。



正面に[戸田亦太夫藤原常保墓 文化四丁卯五月朔日]と刻まれており、これは亦太夫の息子又五郎によって建立されたものとあります。
亦太夫の自刃後の12月に、敗戦の責により俸禄、屋敷は没収されましたが、事情を考慮され、亦五郎は後に松前奉行支配同心に採用されています。
この事から見ても亦太夫は「怯懦の男」ではなく、エトロフを守るために一命を賭した男であったと思います。

この『根室・千島歴史人名事典』に載せられている亦太夫の墓の写真には「択捉島有萌にあった」と書かれていますので、果たして現在のこの墓が現存するかは分かりません。
例え墓石が無くなっていても、そう遠くない未来に再び日本人の手によって、この有萌の地に花が手向けれることを願っています。

尚、間宮林蔵については5月14日(日)開催の第14回巡墓会「深川巡墓会~江戸の始まりと幕末黎明期の群像~」にてお話したいと思っております。

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探墓巡礼顕彰会では5月14日(日)に第14回巡墓会「深川巡墓会~江戸の始まりと幕末黎明期の群像~」を開催します。
詳しくは下記開催要項をご覧下さい。
第14回巡墓会「深川巡墓会~江戸の始まりと幕末黎明期の群像~」
参加申込みは下記フォームよりお願いします。
第14回巡墓会「深川巡墓会~江戸の始まりと幕末黎明期の群像~」申込みフォーム

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